武器の調整を終えてソファに座っていた透は、床がかすかに振動したような気配を感じて目を開けた。脳にかかる負担を出来る限り少なくしようと目を瞑っていたため、それが明瞭に感じ取れた。
 すぐに立ち上がり、入り口へ。
 ドアをわずかに開け、隙間から外を窺った後、肩で突き飛ばすようにして廊下へ出る。武器を持った両手を素早く左右に向け、何もいない事を確かめてから、利き腕の武器にコントロールを絞った。
「利玖さん」
 武器を構えたまま、廊下を進む。庭を調べる時に使った階段がある方だ。その階段は、廊下の突き当たりにある四号室──スイート・ルームの客が使用する事を想定して作られたもので、利玖には存在すら教えていない。たとえ下りたとしても、庭に通じるドアはもう施錠されているし、レストランに行くには遠回りだ。利玖には使う理由がない。
 しかし、彼女が自分の足で一号室の前を横切っていったなら、絶対に気づいたはずだ。
 透は三号室の前で立ち止まる。
 ドアのそばに利玖がいる可能性を考えて、一旦武器を下ろす。片手でそれを握ったまま、もう一方の手でドアをノックした。
 軽く、三度。
 返ってくる音はない。
 それを確かめると、透はすぐに姿勢を変え、ありったけの力でドアを叩いた。
 この部屋の間取りも、ベッドの位置も、そこから外の音がどんな風に聞こえるかも熟知している。たとえ耳栓をして眠っていても、これだけの音を立てれば、無反応ではいられない。
 ふと、違和感を覚え、透はノックをやめた。ドアノブを握り、そっと回してみる。
 鍵がかかっていなかった。
 ドアを開け、中に飛び込む。位置を見ずにつまみを一気にひねってシャンデリアを点けた。
 誰もいないベッドの傍らに、室内履きがきちんと揃えた状態で置かれているのを見て、透は舌打ちをして踵を返した。

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